財布のチャックが一万円を噛んでしまった。一万円札の左上がギザギザの三角形に切れてしまった。自分にとっての一万円の価値を考えると、おそらく同世代の他の者よりガッカリしていたと思う。銀行で取り替えてくれるらしいけれど、今の銀行は昔のように親切ではない。みんな大好き財務省のHPには、予約を取って日本銀行に来いなどと恐ろしげなことが書いてある。
(府中白糸台日記「俺は台湾へ行って臭い豆腐が食いたい」より)
物が壊れるのは吉兆だ、自分の身代わりに壊れてくれたのだ、もしくは新しい物を受け入れるタイミングだというメッセージなのだ。
と、そんなことをどこかで聞いたことがあって、都合がいいときはそういうことなんだろうと思いながら生きてきたけれど、こうして書き出してみると実にスピリチュアルな思想に見える。
それに左上が破れた一万円札を財布に入れ続けているのもどうなのか。
なにせ破けたのは4月で、夏ばっかりだった2023年もぼちぼちと終ろうとしているわけで。
よそで仕事をするときはしっかり休憩が取れる。
昼休みに日本銀行の横浜支店へ行った。
ここに行けば、破れた紙幣を破れていない紙幣に交換してくれるのだ。
来る時は事前に連絡して予約を取れと、ホームページにはなかなかのことが書いてあって、それでいて電話をすると「ならば今すぐいらしていただければ」とのことだった。
窓口で対応してくれたのはネクタイの男性で、しかし実際に破れた一万円札をチェックしているのはその後ろにいたエプロンを着た女性の二人組だった。
日銀というと大した組織には違いないけれど、なんだか田舎の図書館みたいな雰囲気だった。
名前と住所に電話番号、あとは「財布のチャックに挟んでしまったため」と破損した理由を記した書類を提出すると、あっという間に新札の一万円札を渡されて用件は終わった。
対応してもらった2番窓口の横には「現金の受払 傷んだお金の交換」と書かれたプレートが置かれていた。
俺は一万円札を傷つけて、治療もしてやらずに8ヶ月間もほったらかしにしていたのだった。
まだ昼休みは残っていたので、俺は横浜スタジアムの周りを散歩した。
以上