本当は帰りの飛行機代を全部かけたいところだが、このあとパリで暮らす気もないので、特券の二、三枚ずつで勝負しようと思う。
国際電話のダイヤルを回して、トルコの桃ちゃんを呼び出す。
「いつもすまないね。そっちで馬券を買ってほしいんだ。2-2、2-3、2-6、3-6。それに付け加えて3-3の五点で、一万五千円。そのかわり、パリみやげに、ノミの市で財布でも買っていってやるからね」
(寺山修司『風の吹くまま』より)
トルコの桃ちゃんに電話を入れなくても、どこでも手元で馬券が買える時代。
今日の菊花賞はコントレイルが勝った。
三冠馬になった。
しかしなんだか寂しかった。
まだ秋競馬は続いていくが、クラシックを終えると一年がひと段落した気分になる。
今年の競馬は遠かった。
もともと毎週通っていたわけではなかったけれど(内心は通いたかったけれど)、競馬場から締め出された日々は虚しかった。
「こんな年もあった」と消化できる前に、人生の命脈が尽きると思う。
「勝ちそうな馬ではなく、好きな馬を買うのが、競馬のロマンだそうだが」
と出前持ちの四郎がいった。
「好きな馬が二頭以上出てたら、どうしたらいいんだろうね」
(寺山修司『風の吹くまま』より)
やっぱり現地で観ないとなあ。
なかなか思い入れのある馬は出てこない。
2着はアリストテレス、ここまで無敗の二冠馬と叩き合った小牧特別馬。
こういう馬を拾うにはなにかしらの思い入れがないと……
でも4番人気だったの?
大体の競馬ファンは俺より馬券が上手いのはもうわかってる。
それに好きな馬が二頭出てきたら1着2着の折り返しで三連単を買えばいいし、それ以上いるのならボックスにすればいい。
馬の力より、買い手の数字合わせが重要な時代。
押してもダメなら引いてみなと水前寺清子が歌っている。しかし、私の競馬の教訓は「押してもダメでも押してみな」である。一度ダメなら二度、二度ダメなら三度、しつっこく押し続けていると、そのうちに必ず的中する。
菊花賞では○、ダービーでは▲、皐月賞に至ってはコントレイルを飛び越えての◎評価で馬券を買っていたのがサトノフラッグ。
春は馬券圏外で、今日ようやく3着までやってきた。
この馬を頭にした馬券を取る日までは、競馬を続けなければいけないらしい。
菊花賞 理想と現実
◎コントレイル 1着
○サトノフラッグ 3着
▲ヴェルトライゼンデ 7着
△ディープボンド 4着
△ダノングロワール 15着
△ディアマンミノル 13着