
でっかいカーペットの部屋を独り占めしながら、隅っこのほうでゴロゴロしていた。
3時間40分、存分にゴロゴロした。
外側はゴロゴロしながら、内側は別大陸に向かうワクワク感。
津軽海峡フェリーの青森港から函館港まで2380円の料金設定は、明らかに安いといえる。

俺はだいぶ歳をとってしまったけれど、さすがに青函連絡船には間に合わなかった世代だよ。
函館港に降り立つと、フェリーの乗客たちはみんな市街地へのバスを待っていた。
俺は一人で抜け出して、七重浜をぷらぷらしていた。
ぷらぷらするために函館までやってきたのだから、これでいい。
なんだかんだで物事は予定の通りいったほうが安心できるし、楽だし、嬉しい。

風景に無駄がない。

七重浜は洞爺丸が打ち上げられてしまった地でもある。
ja.wikipedia.org
車両甲板上へ奔入する海水量の増加と船体の動揺により、船員は甲板からの引上げを余儀なくされる。開口部から機関室や缶室(ボイラー室)などへの浸水は進み、発電機は次々に運転不能となるとともにビルジ(船底に溜まる汚水のこと)の排出もできなくなり、21時50分頃に左舷主機、22時5分頃には右舷主機が運転不能となった。両舷主機の停止で操船の自由を失った洞爺丸は沈没を避けるため、遠浅の砂浜である七重浜への座礁を決め、22時12分頃に「機関故障により航行不能となったため七重浜に座礁する」と乗客に報じた。
(wikipedia「洞爺丸事故」の項より)

函館駅と五稜郭周辺の距離感は、路面電車がちょうどいい。
この区間を乗る人たちのおかげで函館市電は存続しているのではないか。

函館歩きの拠点にしたのはLC五稜郭ホテルだった。
サウナがある、水風呂もある、無料で使える洗濯機と洗剤もある、2泊しても10000円ちょい。
ここは元ドーミーインエクスプレス函館五稜郭だったのだという。
8月25日の函館はまだ夏の夜。

「チョットマッタ 入浴の前に下半身を洗いましょう」
この桜成浴場センターでは浴室のど真ん中にある白湯と薬草湯が主役であることに疑いはない。
しかし簀の子の匂いがする横長スチームサウナ(熱源は格納式!)と冷水シャワーも楽しかった。
旅先で記憶に残るのは、夜の街より一期一会の銭湯だと思う。

風呂上がりに缶のポカリを飲んで外に出たら、函館はすっかり秋になっていた。
LC五稜郭にチェックインした時は夏だったのに、桜成浴場センターを出たら秋になっていた。
番台のお姉さんに「いいお風呂でした」と頭を下げたら、「また寄ってください」と返してくれたから、また函館に来なければならない。
まださっき上陸したばっかりなんだけどさ。
www.kita-no-sento.com

聞かされるのはネットで読んだ記事のような話、もしくは誰かのバズったポストのような話。
「コピペみたいな人が増えたな」と思った時期があった。
そしてこれからは使っているAIの種類によって話し方、人格、そして人生が決められていく時代になるのだろう。
そして俺が函館に行くと聞いたChatGPTは、やたらとスナックを勧めてきた。

もうしばらくはAIを疑いたいので、素直にスナックには入らなかった。
その代わり居酒屋に入った。
「このあたりはスナックが多いですね」と話すと、「うちも歌えるよ」とマイクが出てきた。
https://digital.hakoshin.jp/hakoraku/oldshop/116698
繁華街の路地に赤提灯を揺らす「やきとりいべちゃん」は、本町界隈がまだ民家ばかりだった1976年、この地域で最初にできたとされる本町壱番街ビルで創業。2011年に移転した現店舗は、カウンターと20人ほどが座れる掘りごたつやカラオケを備えた個室がある。青森県五所川原市出身の伊辺道正店主が、毎年欠かさず見に行くという立佞武多祭りのポスターが壁中に張られ、青森にゆかりのある人が懐かしんで訪れることも多いという。
(函館新聞デジタル「老舗味めぐり」より)

函館にスナックが多いのではない。
函館ではすべての店がスナックなのだ。

「そっちは出たってツキノワグマでしょう?こっちはヒグマだよ」
「ファイターズはエスコン造ったら函館に来てくれなくなっちゃった」
「いちいち美味しい、美味しいって言わなくていいの。函館は全部美味しいんだから」
「函館を選んで来てくれてありがとう」
東京の府中から来たと言ったら、「服役が終わって帰ってきたみたいだな」と言われて笑ってしまった。

豚串もポテトも美味しくてバクバク食べていたら、優しいご主人が「みんな〇円でいいよ」と確かにスナックっぽいお会計になった。

続きが書けたら、また会おうぜ。
そんじゃまた。
以上