一万円札の魂

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財布のチャックが一万円を噛んでしまった。一万円札の左上がギザギザの三角形に切れてしまった。自分にとっての一万円の価値を考えると、おそらく同世代の他の者よりガッカリしていたと思う。銀行で取り替えてくれるらしいけれど、今の銀行は昔のように親切ではない。みんな大好き財務省のHPには、予約を取って日本銀行に来いなどと恐ろしげなことが書いてある。

(府中白糸台日記「俺は台湾へ行って臭い豆腐が食いたい」より)

ちっとも馬券が当たらない分お金がほしいのはもちろん、それに加えて使えない紙幣を持ち続けているのにもなんというか、腰が据わらない気持ちがあった。

本物に間違いないのに、どこか偽札を持っているような感覚。

戸籍を持たずに(持てずに)社会に生きている人の気持ちが、図々しくも入口1/1000くらいは理解できた気すらしてしまった。

魂は持っているのに拠り所がないのだ。

そりゃ深刻度には天と地の差があるのはわかるけどさ。

 

落ち着かないけれど時間はそんなにないので、東府中駅前のりそな銀行で、破損した紙幣の交換をしてくれないかと訊いてみることにした。

すると取引のあるお客であれば、口座に振り込む形で対応してくれるとのことだった。

しかし俺はこれまでりそな銀行と縁のある人生を送ってこなかったので、ここで交換してもらうのは無理だった。

そのまま府中駅まで歩いてみずほ銀行に入ったら、今度はあまりに混んでいてそこまでは…と思った。

働く人にとって、連休谷間の平日はうんざりするけど宝物であることくらいは知っている。

店が閉まる5分前のきらぼし銀行にまでは入る勇気がなくて、結局は一万円札の拠り所を見つけてやれないまま5月最初の一日は過ぎていってしまった。

そして俺はフォーリスのヤオコーで夕食の食材を買って帰った。

桜湯に来たくなったら、子どもたちが寝てからまた来ればいい。

 

それにしても天皇賞・春で実に単勝1.7倍!のタイトルホルダーが競走中止になったというのに、ネット上は彼を案じる声ばかりに占められていた。

いやいや、それがみんなで目指した競馬だったんだけどさ。

パドック的場文男にカツ丼が投げつけられていた、あんな競馬の時代からずいぶん長く生きてしまったものだと思った。