「一番好きな水風呂は?」と訊かれたら「高知の高砂湯」と答えることにしているんだけど、同じように体が出たがらない水風呂に台東区で遭遇するとは。
ここはステンレスではなく、見た目は岩風呂風の中はタイルで、一度立ち上がった体が俺の許しを得ずにもう一度身を沈めてしまうくらい気持ちがよかった。
(府中白糸台日記「これが最後だから奥浅草のアクアプレイス旭へ行った」より)
あれから秋を越えて、もう一度アクアプレイス旭へ行った。
他とは違う水風呂には違いなかったけれど、本能が勝手にもう一度身を沈めてしまうほどの体感ではなかった。
これはまあ、季節だろうね。
110℃のサウナ室のテレビには、笑点が映っている時間帯だった。
背中が賑やかな人たちは、大声では笑わずに「ぷっ」と堪えきれずに噴き出す。
ナイツの「北の国から」「テポドンドン」「キムキムエブリバディ」の漫才がおもしろくて、さすが浅草のサウナのテレビだと思った。
全国放送だけど。
でもね、いい経験をしたなんて、自分で言うことではないけれど。
ただ暑いだけの夏にはならなかった。
豊かになった。
いつかあきらめた海へもう一度、という気持ちになった。
格好いいこと言ってるよな。
でもこの時の本音には違いなかった。
本音が格好いいんだから、この時の俺は格好よかったんだよ。
あきらめないでやっていればこの後に論文が一本通るからと、夏のアクアプレイス旭の水風呂で出たり入ったりしていた自分に教えてやりたい。
以上