「どちらからいらしたんですか?」
「あ、東京です」
「わざわざ東京からこちらまで。ご実家ですか?」
「いえ、違うんです、あの、でも、実家は同じ群馬なんですよ、館林なんですよ」
「館林は暑いところですよね」
「そうなんです、それくらいしかなくて」
「いえいえ。ごめんなさいね、そういうつもりじゃなかったのよ。グラスもうひとつ、お水も持ってきますね」
「ありがとうございます」
「沼田はどうですか?田舎でしょう?」
「そんなことないですよ、山の上に街が広がっててびっくりしました」
「駅からいらしたらそう見えるわよね」
「坂を登った先に『↑沼田市役所』の看板があって、ほんとにこの上なんだって思いました」
「バスじゃなくて?歩いて?」
「歩いて登ってきました」
「まあ、それじゃ危なかったでしょう。歩くための道路じゃないから」
「景色も見られたし、(腹回りをさすりながら)ほら、運動不足ですから、歩いたほうがいいんですよ」
「いえいえ。気をつけてね。帰りはバスがいいわよ、安全だし、楽だから」
沼田にある「よし本食堂」は7時から14時までの営業で、木曜定休。
ゴールデンウィークは「みんな遠くに行っちゃって、ヒマだから」通常通り営業するとのことだった。
仕事では仕事なりに喋るしかないし、家庭でも家庭なりの言葉を使って生活している。
自分が思ったことをそのまま話しているのは、食堂のおば…お姉さんとの刹那のやりとりくらいしかないのではと思った。
俺には友だちもいないしさ。
相変わらず誰に心を許すこともないまんま、ろくに日記も書かなかった4月がやっと終わる。
以上