「今、炭水化物をやめてるんで、キレやすいけどよろしくお願いします」と初めて会ったやつから挨拶されて、お前の勝手な食事制限に付き合わされる義理なんぞないわとうんざりした。
もう今日のことはひとつも思い出したくない。
だから昨日のこと。
夜、雨の中を境南浴場へ行った。
もともと火曜は空いているという話で、しかもこの天気ならそれに拍車がかかるだろうと、傘からはみ出した左肩を濡らしながら武蔵境へ向かった。
浴室はなんだか、プレオープンの貸し切りイベントに参加したのだと思い込もうとすれば思い込めるくらい空いていた。
サウナも一人で快適だった。
サウナのセッティングうんぬんを語ったところで、それは入っている人間のコンディションなのだ。
誰も入っていないサウナは大体カラッとした空気で、深呼吸したくなる。
そして体の中まで温まる。
帰りは駅前の素浪人に寄った。
奥の席で壁に寄りかかってビールを啜るのが好きなのだが、マスターは「こっちに来たら」と入口近くの席を勧める。
この店ではテレビが見える席が特等席なのだ。
飲み物はコーラだけでも出してくれるし、「今度は子どもを連れてきてもいいですか?」と尋ねたら、「おお、いいよ、いいよ」とマスターは喜んでくれた。
けれど子どもが何歳かを話したことはおそらくないから、マスターの目に俺は成人した子どもがいるくらいの年齢に見えているのだろう。
最近は疲れが取れないのではなくて、もう疲れたままで生きていく体になってしまったのだと諦めている。
以上