ある日の研究室に、旦那さんと娘さんと手を繋いだ真ん中になって、ひとりの院生がやってきた。
お母さんがどんなところで研究をしていたのか、最後に見せてあげたかったのだそうだ。
彼女はこの世界を去っていく。
あきらめて去っていく。
「あなたの論文が(査読を)通ったのが最後の決め手になりました」と笑っていた。
こういう時のこの世界の人は、笑っているからこそこれが100%の本心なのだ。
ああ、こんな形での人の殺し方もあるんだなと思った。
俺は研究者になる前に殺人者になっていたのだった。
この2年弱の間だけでも、自分より優秀な人が去っていく姿を何回か見送った。
優秀って何だろうね?
そして優秀に何の価値があるんだろうね?
優秀だなんて一度として評価されたことのない、自分はまだここに居座っている。
以上