昭和72年の油売り

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このくらいの金額で落ち着いたなんて思うな。あれは確か昭和72年、俺が館林のカナイ石油で油を売っていた頃はレギュラーでリッター90円を切っていた。みんな大好き東京電力は、6月から電気料金を3割アップするのだという。電気料金は2ヶ月未納だと送電をストップされるらしいので(正確なところはまだそこまでは払えなかった経験がないのでよくわからんけど)、秋には干乾びた人間が相次いで発見される世の中になっているかもしれない。それにそこまで電気料金が上昇すれば、上昇するのは電気料金だけでは済まない。おそらく人間の価値以外は、どれも値上がりするのだろう。誰も買えなくなったものに高値の札がついた閑散とした売り場。産まれて生きて死んでいくのは、人間ではなく経済だった。人間を大事にせず、子どもの絶滅に力を注いできたこの国らしい終わり方。どうして今さら少子化対策なんて言い出したんだろう。どうせなら最後まで、この国から子どもがゼロになるまで、やり抜いてしまえばいいのに。もうどうせ駄目なのだから。お前らがここまで駄目にしたのだから。学問に取り組むには旬の時期がある。若ければいい。やはり若さには勝てない。統計上の数字を、あくまで数字として扱える冷徹さがある時期が旬だ。歳をとると情が入る。俺はいつも東北地方の統計を見ると苦しくなる。きっと秋田の駅前に行けば、産まれてくるはずだった子どもたちが、親になるはずだった両親と手をつないで楽しそうに歩く様子が見えるはず。もちろん、彼らの姿は透明なのだ。

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府中のあけぼの湯も、屋根のあのスパアルプスに似た青と赤の照明が灯っておらず、遠目から不安になった。近づいてみれば営業していて、サウナも水風呂もいつもの通りで、安心はしたんだけれど。節電だろうか。ネオンのない夜、思えばこれは2年前の百合子が夢見た景色だったと今さら思い出した。

 

以上