(撮影許可済み)
甲府駅から歩いて10分くらいだろうか。
なにせ暑い日だったので時間の感覚を見失っていて、1時間歩いたような気もするし、3分で着いたような気もする。
ここは喜久乃湯温泉。
存在感は控えめだが、サウナも水風呂も一応ある。
喜久乃湯温泉は、かつて太宰治が通った銭湯なのだという。
太宰治は甲府の女性と再婚し、短期間だがここ甲府で暮らしていたらしい。
作家の再婚。
鉄道作家であった宮脇俊三が再婚した際に贈られた「再版は誤植がなくてよろしい」のフレーズを思い出す。
喜久乃湯温泉は、入ってみたら以前来たことがあるのに気づいた。
それは間違いなく山梨に住み緩々と温泉巡りなどしていた頃、おそらく20年は前のこと。
いつもどこかに行きたい、遠くに行きたいと思っているのだけれど、自分自身はもう戻れない遠くまで来てしまっているわけで。
この地に生まれ、この地に育ち、この地に暮らし、この地の土となる。
そんな一生を送りたかったな。
転々とする気もないのに、転々としてしまった。
とにかくね、甲府盆地ってやつは素晴らしいんですよ。
冬は寒く、夏は目いっぱいに暑い。
雨が降ったら止まないし、雪が降ったらすぐに埋もれてしまう。
でもね、こういう土地だから桃やブドウの栽培に向いてるんだって、大学1年の体育の授業(ソフトボール)でF永先生が言ってた。
この日の甲府の最高気温は39.3℃だった。
どうせなら40℃の大台に届いてほしかった気もするが、ここまでくるとコンマ1℃の差でも熱中症の患者数は結構変わってくるんだろうな。
国母駅からすぐそこの桜湯。
風呂が堂々と広くて、炭鉱夫が仕事の後に汗を流すような、昔ながらの共同浴場を思わせる雰囲気の造りだった。
おそらくそのままなら20人は入れる三段式のサウナ室は、やはり新型コロナウイルスのせいで8人までの制限になっていた。
が、皆で首を傾けて「甲子園交流試合」とやらを観ていると、本来の夏を少しだけだが取り戻せた気持ちになった。
ふじ温泉へ。
銭湯の扱いで入浴は430円。
時節柄、入口からは線香の匂い。
小部屋のスチームサウナと、下部温泉よりは冷たいくらいの水風呂。
しかしぷかぷかふわふわ浮かんでいれば、水風呂の水温など問題にならない。
一見の客が長いこと出てこないものだから、店主が気にして途中で様子を見にきてくれた。
帰りにはその店主が店の前で水を撒いていて、「よかったらまた来てよ」と言われたもんだからまた来なければならない。
夕飯は甲府の繁華街のはずれ、ソープランドと同じビルを共用しているように見える、信州なる店に行く。
客引きに「信州のほうです」と告げると、いってらっしゃいと手を振ってくれた。
ソープランドと壁一枚を隔てた店内で、生ビール、馬もつ煮、レモンハイ、キムチほうとう。
食後に「よかったら食べてって」とスイカを出してもらった。
終わりのない夏休みがほしい、年の明けない冬休みがほしい、新年度のこない春休みがほしい。
まずは理由はなくても、秋休みがほしい。
こうしてお盆も明けていく。