案外と高いビルに囲まれた本厚木駅前から、山に囲まれた清川村の「別所温泉入口」バス停までが40分。
風景のギャップからすると、この40分間はあっという間だった。
誘拐されて、目隠しされて、運ばれて、突然山の中で解放されてしまった感覚。
さすがに誘拐された経験はなくて、誘拐した経験もないけれど、そう思っちゃったんだからしょうがない。
【利用者の方へ】
当センターのお湯は、丹沢山直下からの「ミネラル豊富な源流」を水源とする清川ならではの「水」を使用しています。
清川村ふれあいセンター別所の湯
※脱衣所の掲示より
今回の目的地は清川村ふれあいセンター別所の湯。
清川村は神奈川県唯一の村であって、確かにサウナ室では横浜エフエムが流れていた。
でっかい石が乗ったサウナストーブ、湿度高めの設定、サウナマットはコロナ対策なのかちょくちょく交換に来てくれる。
満室でおそらく6人までのサウナ室を、4人の爺様が代わる代わる出入りしていて、その5人目として俺が加わってしまったが、嫌な顔はされなかった。
サウナ→水風呂→外気浴というより、爺様たちはラジオを聴くためにサウナ室へ入っている様子だった。
サウナ室を出ると目の前に浴槽があるが、これはぬる湯の温泉で水風呂ではない。
窓の向こうの露天風呂が水風呂になっているのかと思ったら、これはむしろあつ湯の部類だった。
露天の端の柱の向こうに、茶釜のような一人用風呂がポツンと置かれていて、これが水風呂だった。
身体を丸めてザバンと納まってみると、このホースから掛け流しの水風呂がジャストサイズに思えてきて、さらに茶釜の錆がこの水の効能を証明しているかのように思えてくる。
小さく泡立った水風呂に入りながら風を受けると、この神奈川県で唯一の村はなかなかいいところだと、あっという間に気に入ってしまう。
3時間利用で700円、6時間で1000円、1日なら1300円。
1日!
と思うが食堂でメシを食って大広間でゴロゴロもできるので、そんな過ごし方も十分に可能だろう。
「美味しいものあるから食べていってよ」と、好ましい入口から食堂山ぼうしのおばちゃん。
しかし俺は本厚木でラーメンと餃子をたらふく食べた後で、夕飯には子どもたちとカレーを食べる約束があって、かつバスの時間と雨雲が迫っていたから、生真面目にこれを辞退した。
つくづく俺は、つまんない男だねえ。
つまんないまんま生きてきて、もうしばらく生きていく。
今度は山ぼうしで目一杯食うために、おばちゃんに喜んでもらうために、目一杯腹を空かして清川村までやって来る。
これは約束だ。
【清川村ふれあいセンター 別所の湯】