大黒湯の記憶

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物事が覚えられなくなるというのは、それだけの現象ではなくて、要は脳が弱っているのだと思うんですよ。

不意に昔のことを思い出してしまうのも、脳をコントロールできなくなっている証拠なのではないかと。

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俺たちのAKスパに行こうとして、新宿に差し掛かったあたりで、月曜にAKスパは清掃時間を長めにとっていることを思い出した。

これは有用な「思い出した」だろう。

まだ明るい時間とはいえ、これから立ちんぼに囲われるあの公園で時間を潰す気にはならない。

俺はそのまま中央線を進み、お茶の水総武線に乗り換えた。

楽天地スパに行こうとして錦糸町で降りたのに、その瞬間に去年の夏を思い出して、スカイツリーを目印に大黒湯へ向かって歩いた。

一度行ったことがあれば、道なんて覚えているものだ。

赤いサウナ、一人用の水風呂、スカイツリーの外気浴。

脳が覚えているのか、体が覚えているのか、どっちなのかはわからないけれど。

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でもね、いい経験をしたなんて、自分で言うことではないけれど。

ただ暑いだけの夏にはならなかった。

豊かになった。

いつかあきらめた海へもう一度、という気持ちになった。

(府中白糸台日記「これが最後だから奥浅草のアクアプレイス旭へ行った」より)

実物が格好悪いんだから、言うことくらい格好つけさせてほしい。

結構格好いいこと言ってたじゃん、去年の俺は。

今はその「あきらめた海」とやらに投げ込まれて、遠泳でクタクタになってどこか離れ小島にたどり着けるか、溺れ死んでしまうかというところ。

溺れ死んだらすぐに失われたサウナに入って、彼岸の選手たちの野球を観に川崎球場へ行こう。

そうなった後のほうがずっと楽しそうで、これは自分で作ったひとつの宗教なのだろう。

以上