17時を10分くらいすぎた頃、同じ作業服を着た人たちが入ってきた。
働く人はみんな偉い。
だから一見の客からも「お疲れさまでした」と伝えたくなる。
知るかぎり東京では、人気の銭湯に行列ができる時代になった。
銭湯が生活だった頃、そこに行列はあったのだろうか。
この豊橋の人蔘湯(にんじんゆ)は、入口に人が並ぶこともなく、夕方は夕方らしく夜に向かって時間がスローダウンしていく、懐かしい思いがする地方都市の銭湯だった。
同じ作業服を脱いで、同じ風呂に入って、それぞれの家に帰っていく。
人蔘湯の看板には「ラドン温泉」の文字があるが、これはかつての名残りで現存はしない。
ここは2020年の秋に一旦廃業して、銭湯再生のゆとなみ社が翌春にリニューアルオープンした店なのだ。
男湯については、かつてラドンの浴槽があった場所がドライサウナになっているとのこと。
「思っていたより」と書くと失礼な気もするが、熱さと湿度が両立している、パワーのあるサウナだった。
全体的には昔ながらの銭湯なのだが、まだまだ新しい木の匂いがするサウナ室だけは、大地主の旧家に建て増しされた息子夫婦の新居の趣があった。
【ゆとなみ社】