『狂人日記』(色川武大)

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幻視や幻聴に悩まされ、自らを「狂人」と定義した主人公の目線で描かれた小説。

狂人であっても人である限りそこに生活があるのは当然、とばかりに場面は切り替われど噛み合わない対人のやりとりが延々と続いていく。

もっとも色川武大がこの『狂人日記』を世に送り出したのは昭和の末期だったから、まだまだ孤独死の概念が薄く、良くも悪くもお節介な隣人が存在し得た時代であったことが、単純に作品に反映しているだけなのかもしれない。

 

「我れから狂人という者は狂人にあらず、などというが、こんな言葉くらい当てにならぬものはない。それは昔、情緒が安定していて、人がより大きなものに律せられて生きていた頃の言葉だ」

 

あとがきでは、主人公は自分ではなくモデルとなる人物はいたが特にモデルにしたわけではない、と分かりにくいことが記されている。

今さらながら色川武大=『麻雀放浪記阿佐田哲也であり、山口瞳が古き良き公営競馬場を巡った名著『地方競馬流浪記』の中でも、ギャンブラー阿佐田哲也として益田競馬場に登場している。

ナルコレプシーという所構わず眠ってしまう病気であること、その様子を巨大なる眠り人形と表されている場面がある。

 

「狂人とは、意識が健康でない者の総称であって、千差万別、度合いの差あり、また一定時間のみ狂う者あり、部分的に一つの神経のみ病んでいる者あり、完全に正常な意識を失っている者などごくわずかだ」

 

ナルコレプシーにも幻視や幻聴が伴う場合がある。

千差万別、度合いの差ありと書かれているので、この作品を読んだ以上必ずそうだとは言い難いが、おそらく色川武大にもそのような症状はあったのだろう。

そうでないとこんなに細々と狂人について描けないはず。

 

「不意に、壁から飛び出して急降下し、自分の顔すれすれに何かが飛んだ。懸命に息を吹きかける。小さな珠が白い粉を撒きながら右へ左へと飛び廻って隙あらば襲ってこようとする」

 

 Amazonに「精神的に不安定な人は絶対この本を読まないでください」というレビューがある。

読んだらあなたも狂人日記、とは言わないが、読みながら自分の隙を突かれるような、自分の中の狂った部分を突きつけられるような、そんな雰囲気はある。

深夜には読まないほうがいいかもしれない。

 

「他人もそうなのかどうかわからない。他人は他人で、ちがうこわれかたをしているのか、いないのか、それもよくわからない」

 

この本、大学生の頃に買ったんだ。

読み出して、耐えられなくなって、途中でやめた。

あの時は身近に狂人がいたので、読んでいていたたまれなかったのだ。

20年近く経って、今読んでいる。 

身近な狂人は一応は狂人でなくなったかもしれないが、今度はどうなんだ。

狂人とは意識が健康でない者の総称というこの作品の定義に従えば、新たな狂人に囲まれながら生きているだけのような気がするし、自分自身だって。

 

俺も狂人だ。

すまぬ。

スーツを着たゴリラと神経質なキツネ

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むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。

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おじいさんは、山へ柴刈りに行きます。

「芝刈り」ではなく「柴刈り」なので、お間違いのないよう。

早い話が、おじいさんは林業に従事していました。

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おばあさんは、よく川で洗濯をしていました。

下水道どころか浄化槽にも見捨てられた土地で、沢水や川の水に頼って生活をしていました。

こういうの、ロハスって言うんですか?

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ある日、こんな忘れられた土地には不似合いな、スーツを着たゴリラがやってきました。

「どうだい、シェアハウスはいらんかね」

「セア?ハウス??」

おじいさんには、シェアハウスの意味が分かりませんでした。

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「う、うちは林業だから、野菜農家でもないもんだから、ハウスはいらんよ」

しかしスーツを着たゴリラには聞く耳がありませんから、畳み掛けるように話し続けます。

「副収入になりますよ」

「絶対損はしませんよ」

「おじいさんとおばあさんは今まで通りに生活してくれればいいんです」

「いつまでも体が動くわけじゃないでしょ人間」

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「おじいさんも私も、歳だからねえ。国民年金しかないし、お金は欲しいし、私も一度は海外旅行に行ってみたいのよねえ」

おばあさんの話、おじいさんには初耳でした。

「私はせいぜい、満州しか知らないで生きてきたのよ」

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ゴリラは再び畳み掛けます。

「街の中にシェアハウスを建てましょう」

「管理も住居人の募集もうちでやりますから」

「絶対満室になります」

「万が一、万が一、万が一、満室にならなくてもうちが家賃保証します」

「とにかく儲かります」

「元金だけは用意してください」

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「元金?」

今思えば、おじいさんはここに違和感を持った時点で、引き返しておくべきでした。

さらにまたゴリラの攻撃。

「新しいシェアハウスを建てるんだからお金がかかります」

「古い物件をリフォームするのと大してコストは変わりません」

「山の土地を担保にお金を借りましょう」

「借りてもすぐに返せますよ。なにせ家賃保証しますから」

「担当の銀行の者をすぐに呼びます」

「絶対に借りられます。これだけは間違いない」

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翌日、ドウスルガ銀行の営業と名乗る、目が細くて神経質なキツネのような男がやってきました。

土地の権利書と郵貯の通帳に目を通して、

「なんとかしてやらあ」

と呟いて帰っていきました。

その後、たった一度だけゴリラから電話がありました。

「8000万円の融資降りたから、あとはうちでなんとかするから、あ、家賃保証の件はまだ検討中だから」

と言い残し、その後連絡はありませんでした。

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その後、おじいさんとおばあさんの姿を見た者はいません。

荒廃した、かつておじいさんが柴刈りをしていた山だけが残されています。

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ゴリラとキツネは、どこかでしぶとく生きているらしいです。

今日も誰かの生き血を吸いながら。

天皇賞・春予想

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シュヴァルグラン

アルバート

▲サトノクロニクル

△クリンチャー

レインボーライン

 

競艇風に言うと「枠が走る」と言っていいくらいの条件である、京都3200mの天皇賞・春

最短距離を走れる内枠が有利なのは分かりやすい傾向。

しかし今年は1枠1番ミッキーロケットから4枠7番ピンポンまで、最内からズラリと購入意欲をそそられない馬が並んでしまった感がある。

「内枠だから」しか買いの理由が見つからない馬たち、ここは思い切って軽視。

 

シュヴァルグランは6枠11番。

前走大阪杯は叩きの一戦にしても13着は情けない敗戦。

しかし勝ったスワーヴリチャードはこの後安田記念へ、2着のペルシアンナイトは去年のマイルCSの勝ち馬と、シュヴァルグランには向かないにも程がある軽量級のレースだったと見なして度外視。

このレースと相性のいいハーツクライ産駒、頼もしい先行力もある。

一昨年は3着、去年は2着、今年は悲願達成の予想。

 

アルバートは3000m以上のレースで7戦4勝の距離適性を重視。

位置取りはシュヴァルグランより後ろになってしまうが、内枠の先行馬が沈むところに外から差し込んでくる。

このあたりは好走条件に4コーナー好位が要求される例年とは異なる流れを想定。

 

▲サトノクロニクルはやはりハーツクライ産駒。

前走阪神大賞典ではレインボーラインの2着だったが、先週よりは重くなった馬場でレインボーラインより前の位置が取れる部分で逆転の評価。

58キロへの不安も、ハーツクライの血で無かったことにしてしまおう。

 

△クリンチャーはやはり4コーナーで前方の位置が要求される例年の展開になった場合の残り目、△レインボーラインは追い込んで恵まれればの3着まで。

 

騎手同士の駆け引きも楽しみな長丁場のレースだが、今年はボウマンとルメールのどちらかが頭に来るのでは、と見る。

ぎょうけい館(千葉県銚子市)

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府中から4時間かけてやってきた千葉県銚子市

銚子がどんな感じの土地か、というのはこちらにちらっと書いたのでよろしければ。

銚子電鉄 外川方面(前編)

http://tsumetaimizuburo.hatenablog.com/entry/2018/04/11/164827

銚子電鉄 外川方面(後編)

http://tsumetaimizuburo.hatenablog.com/entry/2018/04/13/013619

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難しい漢字だが読みは「ぎょうけいかん」。

旧字?外字?異体字

ホームページには「ぎょうけい館」と記載されている。

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綺麗なお宿。

それでも日を選べば、2食付きで一人10000円ちょいからプランはあるらしい。

今回はもちろん単身日帰り入浴、本来は1000円のところ銚子電鉄乗り放題の切符「弧回手形Deluxe」の割引特典で700円に。

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着いたのは昼過ぎ、大浴場は貸切状態の贅沢感。

水風呂の掛け流しの水は流れ続けていた。

水道水だけど。

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いつ来ても入れてしまう気がするが、日帰り入浴者の利用時間は11時から15時までの間で案外短いから覚えておくように。

知らずに行って、たまたま入れたからよかったようなもの。

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この辺り、どこのホテルも売りにしているのは当たり前のように海。

オーシャンビューの部屋、オーシャンビューの浴場、オーシャンビューの朝。

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で、サウナは湿度低めの90℃。

正直よくあるスペックのサウナではある。

しかし内装は他では見た記憶がないカーペット敷き、椅子にはサウナマットに包まれたクッションが置かれていた。

やっぱりいいホテルのサウナは違うなと、出る時には何かのステータスがひとつ上がったような錯覚を覚えてしまうサウナ。

自分自身は何も変わらないのに、気分がいい。

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大海原を前にして、絶対に一人しか入れないサイズが愛らしい水風呂。

水道水で18℃くらいだろう。

奥の露天風呂のスペースでは海風の外気浴が可能。

この日は穏やかな天気でにわか旅行者は助かったが、ここで荒天の外気浴をぜひ体験してみたいなとも。

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腰と足に、それぞれハードに効くタイプのマッサージ機が使い放題。

次回は家族連れで泊まりに来たい。

カーペット敷きのサウナに海風の外気浴、締めのマッサージ機で動けなくなって妻から顰蹙を買いそうだけど。

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最寄りは銚子電鉄犬吠駅、もちろん犬吠埼がすぐそこに。

弧回手形Deluxeがあれば、歯に優しくて醤油の香りがストロングな名物ぬれ煎餅も1枚もらえる。

車で来て車で帰りたくなる距離だが、地方私鉄の頑張りにも目を向けてあげてください。

この鉄道は、ぬれ煎餅の売り上げが生命線。

 

【ぎょうけい館】

http://tsumetaimizuburo.hatenablog.com/entry/2018/04/13/013619

皐月賞予想

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エポカドーロ

○ステルヴィオ

ワグネリアン

△グレイル

△タイムフライヤー

 

ダノンプレミアムが主役だった弥生賞、1000m通過のラップは61.5秒。

スプリングSの1000m通過ラップは59.6秒。

距離の違いはあれど、早いペースを経験しているスプリングS組を上位に取る。

アイトーンとケイティクレバーあたりが捨て身で先手争いを繰り広げるであろう今年の皐月賞、スローペースは考え難い。

まだまだ3歳春はまだまだ成長期、秘められた素質より実体験が強みになる時期。

 

と言いつつ、◎エポカドーロは絶好調の藤原英調教師がどうしてか先手にこだわるコメント。

人一倍逃げたがらない鞍上戸崎と合わせてこれはブラフと決めつける。

スプリングSではエポカドーロに勝った○ステルヴィオだが、オルフェーヴル産駒とロードカナロア産駒では距離延長で逆転の次点評価。

ワグネリアンは地力評価も馬場悪化の中山で勝ち切るとまでは決めつけないほうがおいしいディープインパクト産駒。

△グレイルは忘れられた共同通信杯一番人気。

△タイムフライヤーは人気を目一杯裏切った若葉Sのマイナスイメージが妙味に繋がれば。

 

予想の前に「春の嵐」なんて天気予報もある皐月賞

今回は◎○▲ー◎○▲ー◎○▲△△の18点に網を掛けたい。