スーツを着たゴリラと神経質なキツネ

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むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。

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おじいさんは、山へ柴刈りに行きます。

「芝刈り」ではなく「柴刈り」なので、お間違いのないよう。

早い話が、おじいさんは林業に従事していました。

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おばあさんは、よく川で洗濯をしていました。

下水道どころか浄化槽にも見捨てられた土地で、沢水や川の水に頼って生活をしていました。

こういうの、ロハスって言うんですか?

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ある日、こんな忘れられた土地には不似合いな、スーツを着たゴリラがやってきました。

「どうだい、シェアハウスはいらんかね」

「セア?ハウス??」

おじいさんには、シェアハウスの意味が分かりませんでした。

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「う、うちは林業だから、野菜農家でもないもんだから、ハウスはいらんよ」

しかしスーツを着たゴリラには聞く耳がありませんから、畳み掛けるように話し続けます。

「副収入になりますよ」

「絶対損はしませんよ」

「おじいさんとおばあさんは今まで通りに生活してくれればいいんです」

「いつまでも体が動くわけじゃないでしょ人間」

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「おじいさんも私も、歳だからねえ。国民年金しかないし、お金は欲しいし、私も一度は海外旅行に行ってみたいのよねえ」

おばあさんの話、おじいさんには初耳でした。

「私はせいぜい、満州しか知らないで生きてきたのよ」

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ゴリラは再び畳み掛けます。

「街の中にシェアハウスを建てましょう」

「管理も住居人の募集もうちでやりますから」

「絶対満室になります」

「万が一、万が一、万が一、満室にならなくてもうちが家賃保証します」

「とにかく儲かります」

「元金だけは用意してください」

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「元金?」

今思えば、おじいさんはここに違和感を持った時点で、引き返しておくべきでした。

さらにまたゴリラの攻撃。

「新しいシェアハウスを建てるんだからお金がかかります」

「古い物件をリフォームするのと大してコストは変わりません」

「山の土地を担保にお金を借りましょう」

「借りてもすぐに返せますよ。なにせ家賃保証しますから」

「担当の銀行の者をすぐに呼びます」

「絶対に借りられます。これだけは間違いない」

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翌日、ドウスルガ銀行の営業と名乗る、目が細くて神経質なキツネのような男がやってきました。

土地の権利書と郵貯の通帳に目を通して、

「なんとかしてやらあ」

と呟いて帰っていきました。

その後、たった一度だけゴリラから電話がありました。

「8000万円の融資降りたから、あとはうちでなんとかするから、あ、家賃保証の件はまだ検討中だから」

と言い残し、その後連絡はありませんでした。

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その後、おじいさんとおばあさんの姿を見た者はいません。

荒廃した、かつておじいさんが柴刈りをしていた山だけが残されています。

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ゴリラとキツネは、どこかでしぶとく生きているらしいです。

今日も誰かの生き血を吸いながら。