その松下電器産業とパナソニックが、商標として長く使用してきたのが「ナショナル」だ。
本当に記憶の片隅なのだが、「明る〜いナショナ〜ル」のCMを、この41歳は脳内に再生させることができる。
大阪は奇抜な名前の銭湯が多いと勝手に思っているが、このナショナル温泉もそのひとつであって、名前に惹かれてやってきたのはまあ、確かではある。
営業は15時から23時まで、ただしサウナの電源が入っているのは22時半まで。
定休日は第1と第3の木曜日。
入浴料450円に、サウナ利用はプラス100円でオレンジ色に「ナショナル温泉」と書かれたタオルが付く。
塩風呂、寝風呂、電気風呂、エステ風呂、囲いのついた半身浴場があって浴室内は充実だ。
サウナ室は上段下段2×2の定員4人でこじんまり、上段の背もたれには画鋲で黄色いタオルが貼られている。
サウナストーブは小さな樽型だが、どうしてこんなにと思うくらいでっかいストーンが山積みに乗っかっていて、湿度寄りの設定。
水風呂はかなり深く、かなり冷たい。
入って思い出したのはコスモプラザ赤羽の水風呂だったが、こちらのほうが広さがあるから立派だ。
全般的に明るく清潔で、周囲の景色から受けた場末感は店内にはない。
見ない顔だと思ったのだろう。
帰りにタオルを返そうとすると、元気なご主人が話しかけてくれて、これが大阪の醍醐味だと思う。
「水は15℃に冷やしとるからね。今は冷やしたらそのままの温度で水風呂まで引っ張ってこれるからええ季節や」
「たまに取材が来るよ。どうしてナショナル温泉なんて名前にしたんやって。でも50年近く前からやっとるからね、ワシにもわからんのよ」
「昔は府内に銭湯が2500件あって、それが今は300件や」
「機械が壊れるか、代替わりせなあかんタイミングでどこもやめる。ボイラーから何から入れ替えたら、ここらで中古の戸建て買えるくらいは金かかるからね」
サウナ室のテレビではずっと橋下徹が喋っていた。
大阪都構想は実現しなかった。
しかしそれは、すでに彼らが二重行政なるものを解消しつつあり、都構想の必要性を感じてもらえなくなった結果であり、彼らの政治が成功している証だという。
政治が成功した証として、銭湯はどんどん姿を消しているのだろうか。
たくさん話してくれたご主人は、「ほな」と手を振って受付を奥様と交代した。
奥様には「またいらっしゃい」と見送ってもらった。
俺は本当に「また……」の物言いに弱い。
こんなに優しく見送ってもらったら、また京阪電車に乗って、このナショナル温泉に来なければならない。
文化住宅の向こうに光るナショナル温泉の看板。
電機メーカーのブランド名を冠した銭湯に間違いないが、ホームページは存在しない。