夢の缶コーヒー

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いつも睡眠不足なのに大した眠りを得られないくせに、珍しく夢を見た。
他の人はよく見ることがあるという「大学で単位を落とす夢」というやつだ。
俺が見たのは落とした後の光景だったかもしれない。
本が縦に積まれている懐かしいゼミ室で、何かの提出に間に合わなかったと俺は落ち込んでいたから、単位どころか卒業できなくなる話だったのかもしれない。
そうなると卒論を出せなかったのかもしれない。
ゼミ室の中には何人もいたけれど、みんなの顔は見えなくて、ひとりの女の子の声だけが聞こえてきた。
俺を慰めてくれるような話で、かつてはよく聞いていた、心当たりのある声だった。
その声を聞いたら落ち着いた。
落ち着かない夢というのがあるのかどうかはわからないけれど、俺は落ち着いた。
そしてこの人と結婚すればいいのかと思った。
夢の中でそういう思いが持てるのかどうかもわからないけれど、俺はそう思った。
そしておそらくひとまず、缶コーヒーを買いに行こうと廊下に出た。
自販機に向かう階段に差し掛かったあたりで夢は終わった

 

日曜と祝日の間だが、今日の俺はあって年に一度の早出出勤で、いつもより1時間早く起きた。
ここは夢の話ではない。
もう1時間眠れたら、俺は無事に缶コーヒーを手に入れることができたのだろうか。
缶コーヒーを飲みながら何を思っただろうか。
もう一度あの子と会話することができただろうか。
あれから6時間~11時間は経っているし、俺はようやく早出出勤の休憩中だ。
夢というのは見終わった瞬間からどんどん失われていくものだ。
俺は今からまた缶コーヒーを買いに行く。
あの子が今もどこかで元気にしていてくれたら、それでいい。