新型コロナウイルスのおかげで不要不急の外出を控えろといわれても、南武線が空いてくる気配はしない。
まったくもって観光の匂いがしない路線だから仕方がない。
いつだって必要火急の利用者のために、南武線は走り続けているのだから。
降りたのは矢向駅。
だいぶ川崎寄りまでやってきたが、ここは横浜市鶴見区。
目的の銭湯サウナへ、駅前の八百屋に向かって左側に進み、後は道なりに進むだけ。
鶴見に来たからといって、皆がユーランド鶴見やおふろの国やRAKU SPAを目指すわけではないのだ。
ところで俺はRAKU SPAには行ったことがない。
矢向駅から歩いてせいぜい5分、冨士の湯に到着。
てっぺんに縦のちょいが入らない「冨」の表記になっている。
構造が違う浴室は日ごとに男女の入れ替え制で、どうも露天風呂がある側が当たりということになっているらしいが、今日は幸いにも男湯が当たりの日だった。
入浴料にサウナ料金220円を加えて、690円のバスタオル付き。
どうしてか脱衣所には電気がついておらず、窓から差し込む光に頼っていて、現役の銭湯で間違いないのに、どこか廃墟のような雰囲気があった。
しかし浴室に入ると侘しい雰囲気は消え、一体ここには何種類の浴槽があったのだろうか。
俺は黒湯の露天風呂で温まり、同じく黒湯の打たせ湯を浴びて、ジェットバスに吹っ飛ばされてから、サウナに入った。
テレビの音だけが聞こえてモニターはどこにあるのだろうと思ったら、今入ってきた扉の上にあった。
上下2段のベンチには銭湯サウナによくあるオレンジのマットが敷かれていたが、床にはそのあたりの家から持ち寄ったような、不揃いな玄関マットが何枚か置かれていた。
無臭の遠赤外線サウナはやや乾燥寄りの100℃とセッティングは上々、水風呂は広くバイブラがあるが、隅に寄れば充分に羽衣を守れる。
露天風呂のスペースには椅子もあるから、打たせ湯が流れ落ちる音を聞きながら外気浴もできる。
受付の優しげなお姉さんは、俺の帰りに合わせてサービスカードを作ってくれていた。
他のお客さんに「今月のお休みはいつですか?」と訊かれると「ごめんなさいね、まだ決まっていないんですよ」と丁寧に答えていて、どうも冨士の湯は相当に営業日数が多いタイプの不定休らしい。
帰りはこれも矢向駅にほど近い、イチハレ珈琲店でおやつの時間。
ラーメン屋と焼肉屋ばかりの界隈では、異彩を放っている店だった。
今日は踏切のこっち側で冨士の湯だった。
踏切の向こう側には、兄弟のようにそっくりな矢向湯という銭湯もあるらしい。
【冨士の湯】