東武アーバンパークライン(ああ野暮ったい!野田線と言わせろ!)の岩槻駅から歩いて10分はかからないかな、という距離。
ここは埼玉県さいたま市岩槻区で、平成17年までは岩槻市だった。
受付では「ここは何にもないけどいいかい?」と訊かれた。
これは案外に深い問いであって、何もない銭湯というものがあるのだろうか。
とりあえずシャンプーリンスボディソープ、浴室にその類は何にも置いていなかった。
入浴料430円、サウナ料金は別途200円。
サウナ室にテレビはなく、しかし有線のJ-POPが流れていた。
MISIA、GLAY、ELT、そして中島みゆきまでもが流れていた。
しかもスピーカーのせいなのかサウナ室の構造のおかげなのか、音の響きがやたらといい。
『ヘッドライト・テールライト』を聴きながら、このサウナ室は採石場のようだなと思った。
灰色でレンガ調の壁。
サウナストーブが見えない格納式だが、ベンチ席の背もたれの奥にはわかりやすい熱気の吐出口がある。
俺はこの店の看板の雰囲気に惹かれて来たのであって、こんなところで湿度が高い好みのサウナと出会えるとは思っていなかった。
首を傾げた室温計は92℃を示していた。
サウナの利用客は俺、そして腕に墨が入った白髪の御大がひとり。
しかし表情は柔和だ。
俺が中島みゆきを聴き終わってから水風呂に入ろうとすると、先に水風呂に入っていた御大が立ち上がって「ほい」と水風呂を指す。
ぶっきらぼうだが優しい「ほい」だ。
ここの水風呂はおっさん2人で入るとむさ苦しくなるサイズ、後から来た人間と順次交代していくことで秩序が保たれる。
水風呂は細い流れだが掛け流し、これが軟水で肌がツルツルするのが売りらしい。
確かにツルツルはするのだが、俺はここに来る前に温泉にも寄っていたので、果たしてこれがいわつき温泉ジャンボの効力なのかは定かでない。
浴室を出ると「今日の感染者は119人だってさ」という会話がされていた。
ここは埼玉県でも、やはり注目されているのは東京都の数値らしい。
つくづく、面倒な世の中になってしまった。
入浴は七病を除去し、七福を得る
垢をさり、みめをよくし、歯を強くなし
目をあきらかになし、口中にうるほいあり
気をはらし、かぜを除く
(いわつき温泉ジャンボ 掲示より原文まま)
以上、人形の街・岩槻の銭湯サウナでした。
俺はよその街の小さな銭湯には、いつだってこれが最後になると思って入るのだけれど、ここにはまた来るような気がしている。
あの御大とまた、譲り合いながら水風呂に入りたい。