「香田の機嫌の良し悪しはわかりやすかった。機嫌が悪いと、目が細くなり、耳まで赤らむ。選手とあいさつを交わすときのナンバーワンのポーズの位置も低く、どこかおざなりになる」
「(香田)監督は、高いから買えない、じゃなくてまず買っちゃうんですよ。ある意味、芸術家ですよ。理論理屈よりも、思いが優先しちゃう」
「それにしても高校野球の監督としては型破りだし、大胆である」
「打線のほうは神戸国際大附の変則左腕大西正樹(元ソフトバンク)にわずか1安打と屈服した。だが、香田はあっけらかんとしていた」
「あんな指導者(香田監督)、初めて見ましたね。怒りと悔しさが、本当ににじみ出てて。帰るぞ、おら!って、汗すら拭かずにバーッとバスに乗って帰っていった感じですから」
香田誉士史とは、実に気持ちの上下動が激しい人だ。
それは演じているわけではないらしい。
途中、ビッフェで山ほどのミートボールを盛っていた描写がある。
察するに、明らかに過食状態だったという。
高校野球の名将、例えば智弁和歌山の高嶋監督や明徳義塾の馬渕監督、現場を退いているが常総学院の木内監督や横浜の渡辺監督など。
この辺りも情熱があり、口うるさいイメージはあるが、どこか演じている雰囲気はある。
少なくともマスコミ対応は、それはそれとクールに割り切って喋れる人たち。
しかし香田監督はそうではなかった。
ここでは香田が取材対象だから、極端に大胆で極端に繊細な性格が愛をもって描かれているが、傍観者からすれば異様なシーンも多かったろう。
北海道からの甲子園制覇、それも連覇。
「アイスホッケーで言えば、沖縄代表が全国優勝したようなもんでしょ」
との例えが出てくる場面があるが、それだけのことを成し遂げたにもかかわらず、あっという間に駒大苫小牧を去り、鶴見大のコーチになり、今は社会人チームの西部ガスでコーチ。
高校野球の現場に戻らないのは本来不自然なのだが、当然そこには察するべきものがある。
香田誉士史、本人は相当に苦しみながら生きているように感じた。
相手チームや選手たちと戦う以前に、儘ならぬ自分との戦い。
高校野球、駒大苫小牧の監督として2004年と2005年の夏の甲子園を連覇、2006年も決勝まで進出している。
2006年の決勝戦でエース田中将大の駒大苫小牧を破ったのが、エース斎藤佑樹の早稲田実。
この本の中で、斎藤はタフで、クールで、キレのある球を投げる都会的な洗練された投手として描かれている。
この頃の斎藤は本当に凄かったんだよ。
どうしてこうなった?