『月刊サウナ』の連載第2回

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いつ起きているのか寝ているのかわからない日々を送っていると、暮らしの乱れの塩梅で、平日昼間のサウナ屋に行き当たることがある。

広くのびのびと使えるサウナ室、タイミングをはかることなくストレスフリーで入れる水風呂。

今日のこの日も、人がポツンポツンのサウナ室で、足を伸ばしてテレビを眺めていた。

情報番組はWBCを特集してくれていて、我らがオリックスの宇田川がブルペンで投げ込む姿が映っていたのが誇らしかった。

そして18年かけて子どもになったダルビッシュが、さらに18年かけて今はもう誰もかなわない大人になっていることを知った。

 

「まずは体に気をつけて、それからがんばってください」

ツイッターの相互フォローというやつ。

確かその人はフォローをした時点でもう癌である、ということをよくツイートしていた。

治療法の試行錯誤、周りの人たちの反応、緩やかに悪化していく病状、好きだった相模健康センターに最後と決めて行った日のこと。

その人がある日突然「返信は不要です」と前置きをして、「まずは体に気をつけて…」と書いたDMをくれた。

俺は「はい、気をつけます」と、それだけではないけれど、そんな内容のDMを返信した。

やりとりはその一度だけ。

その人のツイートは去年の5月にホスピスに入所してまもなく、止まったままになっている。

 

俺はなんにも知らない。

ツイートされていたことと、一度だけのDMの往復がすべてで、あとはなんにも知らない。

まだ黙浴推奨中のサウナ室だけれど(来月からはどうなるのだろう?)、周りからはひそひそと「4番は村上か」「大谷が入ったら無敵だな」なんて声が聞こえてくる。

その人は「まだ黙浴は続いているぞ」と眉をひそめている側だろうか、それともひそひそ声の一員だろうか。

顔も知らないから確かめるすべもないけれど、今ではすっかり回復してどこかのサウナに入っていると信じているし、なんなら今日入ったサウナ室に居たかもしれないと思っている。

 

 

『月刊サウナ』の「サウナ室で逢おう」、第2回が掲載されて文字通り「連載」になりました。

以上。