もうこの3年で、朝の通勤電車に乗ると同じ車両の同じ場所にだいたい見たことがある顔が揃う、ということはなくなった。
リモートになった人、出社しつつもリモートの比重が高まった人、朝練が廃止されたままの高校生。
しかし俺だけは3年経ってもなにも変わらずに毎日、通勤電車に乗っている。
俺はこっち側の人間なので、はっきりと思っていることを言う資格はあると思う。
リモートに切り替えられなかった人間は負け組だ。
いちいち口に出さなくたって、そうやって扱われるんだけど。
だからお前らから言われる前に、こっちから言ってやった。
俺は負け組だ。
今日もまた多摩丘陵を進む通勤電車に乗っていると、怒鳴り声が聞こえてきた。
2人の男性の声、ただし声を張り上げているのは1人。
ケンカなのか、張り上げているほうの男性から一方的に絡んでいるのか。
なんとかしなければいけないものかと見回し、「非常用ドアコック」の表示を見つけたが、あれはドアが開くとともに電車が止まってしまうやつだ。
今は次の駅まで走行してもらったほうが事態は収拾しやすいのではないか。
ここは1号車、車掌は遠い。
車掌と会話ができるという「非常通報ボタン」もあるはずなのだが、とっさには見つけることができなかった。
そうこう考えているうちに次の駅に着いて、そこで降りた女性が運転士に車内トラブルがあったことを告げていたが、運転士は意に介さずまた次の駅に向けて電車を発車させ、ただひたすらに彼の使命である定時運行を続けていた。
そして2人の男性は、丹沢の山が見えてくる頃には消えていた。
まあ、そんなものなのだ。
火を放たれたり、刃物が本来ではない役割を果たした後でないと、通勤電車は止まらない。
だから俺は今日も働くしかないし、きっと去年のハロウィンの時のような事故は、また起こるに違いないと思っている。
京王線特急の車内で、米人気コミック「バットマン」の悪役「ジョーカー」の仮装をして乗客を無差別に襲撃、殺人未遂容疑で逮捕された住所不定、職業不詳の服部恭太容疑者(24)が、「東京なら人をたくさん殺せると思った」と供述していることが分かった。9月末ごろに上京しており、人出が多いハロウィーン当日に無差別大量殺人を引き起こす狙いだったとみられる。
(夕刊フジ)