横浜は広すぎる。
「横浜南郵便局」といわれても、そりゃ横浜の南のほうにあるんだろうけど、地形図の中のどのあたりなのかパッと浮かんでこない。
俺は神奈川で働いているくせに、神奈川を知らなすぎる。
それは神奈川が嫌いで、神奈川に興味が持てなかったから。
だってさ、俺にとっての神奈川は働くための場所でしかなかったわけでさ。
いい思い出なんかなんにもないんだもん。
神奈川県横浜市南区井土ケ谷上町、横浜天然温泉くさつ。
コンフォード(原文まま)サウナだったが、もう一方のロッキーサウナと入れ替え制らしい。
水風呂も黒湯の温泉が使われていて、吐水口から茶色く流れ落ちる様子を見ているだけで、ここに来た甲斐があったと自らに暗示がかかる。
ここは横浜で、サウナ入ってメシも食えるんだから、あの有名なスカイスパに間違いない。
神奈川が嫌いな神奈川労働者は歩く。
そういうことを考えている時は多分に頭がおかしくなっているんだけど、今振り返っても少々の狂気は含まれていたにせよ、思考の順序は冷静に守っていたように思う。
すなわち俺は本気だった。
新型コロナで有耶無耶にされてしまったが、順調なら俺は去年の春に仕事を辞めて、路上生活者になるつもりだった。
このあたりの界隈は、その路上生活の候補地だった。
横浜市南区永楽町、永楽湯。
サウナイキタイのポスターなんぞ絶対に貼られないであろうクラシカルな雰囲気、率直にいえば古くなるまま放ったらかしの感も。
常連たちは15時の開店を待ち侘びていたのであろう。
そこに加わった府中からの異邦人。
まれびとなんてとんでもない、もののけ扱い。
ただ俺は冷たい視線には日頃から慣れているので。
常連からの視線だけではなく、水風呂もやたらと冷たかった。
一体ここはどうしたんだというくらい冷たかった。
サウナ室には中山産業のポスターが貼られていた。
まだ歩く。
これは全部今日の出来事。
横浜市南区中村町の中村浴場。
サウナ利用を告げると渡されるバスタオルが2枚、1枚はサウナ室でマットとして使ってくれとのこと。
白いサウナ室には『部屋とYシャツと私』が流れていた。
横浜のラブホ街、風俗街を歩く。
今はタダでも風俗に行く気はしない。
感染経路……自白しなければそれまでなんだろうけどさ。
過去2週間の行動履歴とか、どれくらいの圧力をかけられて喋らされるものなんだろうね。
いやしかし、裸にもちろんノーマスクでしょっちゅうサウナ入ってる人間が、風俗からの感染うんぬんを言うのもおかしいのかもしれない。
ニューシティーは好みの店だった。
20年前にたくさんあったような、広さと大雑把さが両立したサウナ屋だった。
サウナ室は広かったが、ドアが外れかかっていた。
自然に「懐かしい」と思えてしまったので、以前に来ていた可能性もある。
横浜で遊んだ記憶はほとんどない人生なのだけれど。
横浜天然温泉くさつ→永楽湯→中村浴場→ニューシティー。
この後スカイスパへ行くか、それとも戸部駅の遊湯記念湯へ行って「スカイスパへ一歩届かなかった」のオチで終えるか。
そう思っていたのだけれど、ニューシティーでビール飲んで気持ちよくなったので、今日の横浜探検はここまで。
朝起きた瞬間と比べれば、神奈川を好きになれたかもしれないし、なれなかったかもしれない。