高所恐怖症を克服した日

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高所作業車という、はしご車の先のカゴがついたような車がある。
前職の時は、年末に大きなクリスマスツリーを飾る作業があって、そのカゴに乗ってツリーを天井からのワイヤーに括り付けたり、星やサンタを飾ったりしていた。
俺はその作業が嫌で、毎年の年末になるとうんざりしていた。
単純に高いところが怖いから、そして俺だけに高所作業をさせておいて下で世間話を楽しんでいる俺よりも給料の高い奴らに腹が立つからだった。
あのクリスマスツリーは、俺の呪いで輝いていたといっていい。


いつまで経っても後輩が採用されることもなく、「若いから」という理由で毎年俺だけがカゴに乗らされていた。

ところがある年からまったく恐怖心がなくなった。
もううんざりすることが多すぎて「死んじまってもいいや」と本格的に思い始めた頃だと思う。
自分の命を放り出してみると、いろいろなことが怖くなくなった。
これは健全な精神の話ではないから、こういうことがあったということだけだ。
生きることが楽になったわけでもなく、もちろんここから新しい世界が開けたということもなく。
そんな心境で高所作業をしていた俺を、なぜか活き活きと仕事に取り組んでいると評した人がいた。
おかげでようやく後輩が入ってきても「あいつはあの作業が好きだから」という理由で、高所作業は俺が続けることになった。
そういう風土が大嫌いで、結局俺はケンカ別れで転職をしたのだった。

 

活き活きしている人を見たら、気にかけてあげてほしい。
ある日突然、消えてしまうかもしれないよ。
その時ツリーの下でゲラゲラ笑っていた連中は「彼が消えてしまうとは思わなかった」と、しれっと言うのだろう。
今日も働いている中で「最近お前元気そうだよな」と声を掛けられ、腹を立てながら、あの頃のことを思い出した。

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今日のサウナは幡ヶ谷の観音湯。

観音湯へ向かう路地の入り口の、花魁ガールズバーの女の子が、衣装のまんまでタバコを買いに出てきていて、やたらと強い風に吹かれている様子が、クソエロくて異世界感があった。

以上。