美しきセンター試験の記憶

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 大学入試センター試験始まる(時事通信

現行方式で最後となる大学入試センター試験が18日、全国689の会場で始まった。志願者数は前年度より1万9131人少ない55万7699人=同日午前、東京都文京区

 

俺にとってのセンター試験の思い出は、受験生の中に一目見ただけでハッとするような美人がいたことだ。

あの日以来、あんなに美しい女性は見たことがないし、これからも見ることはない。

好みうんぬんの域を超越した、世界中のだれが見ても美人と評するような女性だった。

女の子、と書く気にさせないくらい完成された美しい女性だった。

浪人生を除けばほとんどが制服姿で試験を受ける田舎だったので、おそらく彼女の高校もその時は特定していたのだろうが、そこは覚えていない。

ただそこで俺は、はじめてもっと勉強してくればよかったと思った。

彼女が東京大学に行くのなら、俺も東京大学に行きたい。

ここで試験を受けているのだから、少なくともハーバード大学まではいかないのだろう。

この俺に日本中のどの大学にでも合格できる学力があれば、彼女と同じ大学に入れるわけだ。

女子大だったらどうしよう。

その時はとりあえず近くの大学にいけばいいか。

こうして俺はセンター試験の会場で、学力さえあれば人生がある程度は自由になることを実感したのだったが、手遅れだった。

数学2Bを途中で投げ出した後は、ずっと斜め後ろからセミロングの彼女のことを見ていた。

後ろ姿も美しかった。

試験会場の大学は、ここが本当に大学なのか?と思わせるくらいこじんまりとした建物だったのだが、おかげでこうして小さな教室で一緒に試験を受けることができたのだから幸運だった。

あれから20年以上経つのに、いまだに美しかったとしか評しようがない。

繰り返すがとにかく美しかったのだ。

今となってどの芸能人に似ている、ということもない。

彼女は彼女として、美しかった。

 

この年のセンター試験、一番最後の科目は政治経済だった。

俺はここでようやく調子が出てきて、まるでレースが決まってから追い込んでくるナイスネイチャ松永昌博みたいだと自分で思った。

おそらく日本史か世界史で決着をつけたのであろう、彼女の姿はもう消えていた。

 

家に帰ると「都留文科大学会場では、雪のため1時間遅れでセンター試験を実施しました」とのニュースが流れていた。

大雪が降るくらいだから北海道の大学なのだろうかと思ったら、山梨県にあるらしく俺にはまだまだ知らないことが多すぎるとため息をついた。

結局その2か月後、俺は拾われるように何とか合格した都留文科大学への進学を決めたのだが、そこにはあの女性の姿はなかった。