『ライオンズ、1958』(平岡陽明)

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ここでいうライオンズは埼玉西武ライオンズではなくて、西鉄ライオンズだ。

福岡県福岡市に本拠地を置いていた頃の話。

1958年はそんな西鉄ライオンズの黄金期。

野武士軍団と呼ばれていた、荒々しくて危なっかしい選手たち。

そういう存在としてのプロ野球選手が許されていた時代。

つくづく、身売りを繰り返し埼玉の球団になった現在まで、ライオンズの名称が継続されているものだと思う。

 

「少年たちは、いつか童心と別れを告げる。夢から醒めて、大人にならなくちゃいけない時期を迎えるんだ。つらいこともあるだろう。苦しいこともあるだろう。逃げ出したいことだってあるはずだ。そういう時、『むかし大下さんと遊んで楽しかったなぁ』という思い出が少しでも彼らを励ましてくれれば、それでいいんだ」

青バット大下弘、格好いいにもほどがある。

この本は当然ノンフィクションではないが、歴史小説のようなもので、実際に大下弘が書いた『大下弘日記』にもこのような記述がある。

スターで、気さくで、ファンの子どもを大切にして…

自ら命を絶つ最期だったと言われている、大下弘

心優しい人間ほど生きにくいのは、1958年も2017年も、あまり変わっていないところなのかもしれない。

 

新聞記者とヤクザの交流、中洲の娼婦を連れて駆け落ちする選手、戦争の傷痕、神様仏様稲尾様、やがてやってくる黒い霧事件の気配。

 

大下弘は英雄ばい!子どもたちに夢を与えたのは誰か?大人たちに敗戦から立ち直る勇気を与えたのは誰か?大下さんばい。大下さんのホームランばい。大下弘の引き際を決められるのは、大下弘だけ。僕はそう思うとります」

この本は、やっぱり大下弘の本だったな。