塀の外の競馬

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やくざだった父親が殺人をおかして刑務所にはいった。その子はいつも府中の長いコンクリートの塀を見上げて「この中に父ちゃんがいるのだ」と思っていたが、ある日、思い切ってそのコンクリートの塀をよじのぼって塀の中をのぞき込んだ。すると中は刑務所ではなく一面の芝で、馬が走っているのだった。

(『競馬場で逢おう』寺山修司

今日から始まった東京開催は当たり前のように無観客で、刑務所どころか競馬場の塀すら越えられない世の中になってしまっている。

今の状況で競馬が開催されているのは奇跡だと言えるし、そのことについて「不謹慎だ」という声がほとんど耳に入ってこないのも、初代ダビスタの頃から競馬を意識して生きてきた俺にとってはどこか人生を肯定してもらえたような、誇らしいことでもある。

しかし広い空間に、射幸心に満ちた有象無象の輩が集まる競馬場の特質を考えれば、今はこうして開催だけは維持されているけれども、元の姿に戻る日はあらゆるものの中で一番最後になるように思える。

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2月の根岸Sパドックで逆光の立ち姿が美しかったという理由で8歳馬スマートアヴァロンを買い目に入れて、当たり馬券を手に入れた。

そういう競馬が帰ってくる日まで、俺は塀の外で待っている。