朝起きたらます寿司を食っていた。
ます寿司を食いながら今が朝であることに気づいた。
狂っているがいい感じだ。
人間どうせいつか狂うならこうあるべき。
理想の狂気を手に入れた、幸せな朝。
俺の乗っていたこだま号はどうもこの日は様子が違って、東京から品川、新横浜、小田原、熱海、三島、新富士、静岡、登呂コープタウン入口の順番で停車した。
その先はどこへ行ったのか、それは知ったことじゃない。
もしかして静岡空港に勝手に止まって、県知事をにわかに喜ばせていたかも。
サウナしきじ。
でも今日の目的地はここではない。
朝5時に起きてまで目指しているのはここではないんだ。
それでもサウナと水風呂、楽しんだ。
お盆は遠方からの来客で賑わいそうだが、まだ平日朝のこの時間は閑散としてる。
「まだご飯炊けてないんだけど、あと7分待てる?」と言われて待った焼肉定食が昼食だということにする。
まだ10時だけど。
この後の記憶が定かではない。
静岡から先は在来線利用、これだけは確か。
青春18きっぷ、1日目の欄に静岡駅の印が押されていたから。
謎の薬草列車。
青春18きっぷの時期は東海道線キツいんだよねえと、青春38きっぷが語ったところで誰も聞く耳など持たない。
新幹線に乗れやという話だが、小さな街も拾っていきたいので今回は在来線を選んだ。
しかしその割に、途中下車の記憶がない。
大阪着。
あっという間に着いたように見えるけど、長かったからねー!
「子どもが降りるから、空けてくださ〜い」(ベビーカーを押す女性の声、何となく関西弁イントネーションで読んでください)
「ほら、そこ空けてあげや〜」(大阪のおっさんの声)
東京は前田智徳いわくのお前に言われんでもわかっとる、言わんでも察しろの文化が強過ぎる。
声に出してやりとりして面倒ごとを軽く片付けてしまう、関西のやり方は素晴らしい。
全員が全員、そうではないのもお前に言われんでもわかっとる。
大阪環状線の大正駅下車、阪神甲子園球場へ高校野球を観に行く。
お前に言われんでも(略)
オリックスとロッテの試合なのに、阪神戦の途中経過が流れた瞬間が一番盛り上がるってどうなのよ。
あと木更津総合ではないけど習志野高出身、ロッテ福浦が代打でヒットを打って2000本までマジック12。
これは今シーズンでいけるでしょ。
ただその場合は現役生活が今年で…
7回裏のSKYを歌ったところで移動。
わざわざ旅先で野球観戦して最後まで観ない。
なぜなら京セラドーム大阪すら、今回の目的地ではなかったから。
ここ!ここ!
今日の目的地は藤井寺一番街のカラオケスナック、しゃむすん。
スポーツバーなんて洒落たもんじゃない。
断じてしゃむすんはカラオケスナック。
俺もマイク渡されたから。
マスターは近鉄バファローズの主砲として活躍した栗橋茂さん。
この日は66歳の誕生日で花束を持った人がたくさん来てた。
板橋区出身、駒沢大学から近鉄に入ってから40年超ずっと藤井寺の賃貸住まい。
「和製ヘラクレス栗橋」の伝説は金村義明が盛っているというのが定説になっているが、この日栗橋さんと話したらほとんど本当やんけ。
朝帰りで私服のまま練習開始、宿毛キャンプで漁師とケンカ、仰木監督とケンカ、宮崎キャンプでもケンカ…
ケンカばっかりやがな。
店の奥には、閉場した藤井寺球場から持ってきたという品々。
「見せてもらっていいですか?」と尋ねると、「おお、好きに見ろ見ろ」と優しい栗橋さん。
この方、全然関西弁は使わないのね。
「今日の試合はどうだった?」と栗橋さん。
オリックス勝ちましたと伝えるとまだCS望みあるよな、と。
近鉄バファローズOBの栗橋さんが、今でもバファローズを気にしてくれているのが嬉しかった。
それにしてもなんで合併なんか。
丸ごと買ってもらえばいいだけの話だったのに。
マニエルとオグリビーと金村のバットを振らせてもらって、店を出る。
お会計はアバウトな感じで3000円。
栗橋さんは店の外まで見送ってくれた。
この街にプロ野球チームがあったんだ、とあらためて思った昭和93年の夏。
栗橋さんは「そうか、38歳か、俺が引退した歳だよ」と言っていた。